ラスト



彼がいなくなった部室は、元の空気を取り戻すことができないでいた。

(終わるって…一体…。)



「…あんなバカはほっておきましょう。

 …ケチがついちゃったわ。今日は解散!」

 

涼宮さんは機嫌の悪いまま、活動の終了を口にした。
バタン、と可能なかぎりの音をたてて部室のドアは閉じられ。
団長は部屋を後にする。

 

彼に問い詰めに行ったのかもしれない。
そうだ、僕も行かないと。
どういう状況に彼がいるのか、聞かなければ。

 

「……。」
ふと、無言で袖が引かれる。
そうだ、彼女がいた。

言葉を濁すだろう彼より、正確かつ真実が得られる。

 

「長門さん、彼はいったい…。」
質問とともに振り向くと、また驚く。

見たことのない表情をしていた。

「…消失している。」

その一言に、さらに背筋が冷える。

 

「消失?何がです!長門さん!」

「彼個人の情報。氏名からすべて。」
「…何ですって…。」

馬鹿な。
彼女は銀河を統べる情報を把握しているのに。

どういう事なんだ?

 

「…朝比奈さん!今日より先に、彼は存在していたのでしょう?!」
「…はい。そうだったのに…っ!」

彼女の言葉は過去のものだった。では、今はいない。
情報にも、未来にも。

今この場にいた彼が。

 

これは一体何だ?彼の消失?神がそれを選んだのか?



「違う…。これは涼宮ハルヒの望みではない。
 無意識の中でも、一度も望まなかった。

 もっと違う、力。情報統合思念体の及ばない場所。

 例えれば。」

「閉鎖空間のような…?」

「似て非なる。

 この世界の対のような「場」が、彼の消失に働き掛ける力が生まれる方向に存在する。」

 

「力の…場所…。」


「!」

彼女の言う情報を分析しきれないうちに、また彼女の表情が変わる。
「長門さん?どうしました?」

「時間が…ない。」

「え?!」

 

「消失の力が強くなっていく。あと1時間で、完全に。」

「!」

なぜ?

 

どうしていきなりこんなことに?

 

なぜ、よりによって彼が。

 

彼は。

 

 

気がつくと、僕は既に走っていた。

 

 

####

 

「よ。」

 

「……。」

どこをどう走ったのか。

気付けば、彼の家に程近い公園。

待っていたかのように、彼は振り向いた。

貴重なものが見れた、と息切れをした僕に笑いかけた。

 

聞かなければいけない事が山のようにある。
それを十二分に察していたのか、彼は言った。

 

「何から聞きたい?聞いてるかもしれんが、あんまり時間ないからな。」

 

「…何故?」

 

時間がないというのに、いつものように言葉が出ない。
きっと今の僕は彼なら面白いと思う顔をしてるだろう。

 

「…とりあえず、そうだな…。

 かい摘まんで言えば…俺の寿命、みたいなもんかな。あと30分ほどなんだ。」

「な…っ。」

あまりにもあっさりと重要なことを言ってくれたものだ。
僕が死刑宣告されたような気分だ。

 

 

「…なんで…あなたは普通の…。」


「ああ、これがオレの普通だよ。」

 

「何者…なんですか。あなたは…。」

 

 

「そうだな…こっちの言い方するなら…ま、『妖(あやかし)』ってやつかな。」

 

耳を疑った。

何だと、言った?

 

「言い方変えたら妖怪。」

今までもっとも常識的な事を言ってきた人が、

誰よりも非常識な答を返して来た。

 

だが、嘘でないことはわかる。

彼が分かってしまうことが、こんなにつらいのは初めてだった。



                                  To be Continued…



旬ってすごいですねえ。まだ文章がどんどん出てきます;
とりあえずパラレルですので都合よくむちゃくちゃ設定ですね。あやかしキョンくん。
はい、白状します。京極夏彦としゃばけと水木先生の妖怪事典が大好きです。

雰囲気としては昔話に出てくる、人と生活したり結婚できて、人と同化できる妖怪みたいな感じです。
外国で妖精をお嫁さんにしちゃう話とか時々見ますんでああいう存在かな。

次はキョンくんによる詳細説明になりますね。たぶん。

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